WHOによると、5月27日時点で世界で125件の開発案件があり、そのうち10件が人に直接投与する臨床試験まで進んでいる。
作り方で分けると、
① 不活化ワクチン、
② ウイルスベクターワクチン、
③ サブユニットワクチン、
④ RNAワクチン、
⑤ DNAワクチンの5種類となっている。
ワクチンを作れる国はまず自国民の接種を優先するので、他国への供給は後回しになります。もし日本が自前のワクチンを持っていたとしても、同じことをしたはずです。つまり、ワクチンは「安全保障の切り札」なのです。
海外の多くの国は、今回のような緊急時には通常時とは違って、新しい薬剤の承認を迅速に進められる仕組みを整えています。日本は「安全性を優先する」という理由で、国内で使う薬剤の承認には慎重で、どうしても時間がかかります。安全性を追求することは悪いことではないけれど、結果として最前線で働く医療者や重症化リスクの高い高齢者も、なかなかワクチンを打つことができずに待たされる、という結果を招いているのです(安全ではあるが安心が無い?どこかの知事が言っていましたね)。
先行して日本の接種に使っているファイザー社製のワクチンはベルギーからの輸入に依存している。 アメリカ国内でのワクチン接種を優先的に進めるために、バイデン政権はワクチンに国防生産法を適用しており、アメリカから日本にワクチンは供給されていない。
日本で今回、接種されるワクチンはファイザーのほか、米モデルナ、英アストラゼネカの3社製。いずれも遺伝子技術を使った世界初の「遺伝子ワクチン」で、ファイザー製の場合、ウイルスの遺伝子の一部「メッセンジャーRNA」を活用したものだ。
今日の話題は
1.【各地で事故多発、ファイザー製ワクチンの正体】
次がワクチンと違いますが、中國による技術搾取と言うスパイ活動が大企業ばかりではなくこれ等の下請け企業である町工場にも及んでいる事に警鐘を鳴らしている件を見て於きますね。
2.【地方の町工場も危ない!根こそぎ技術を奪う中國の見えない侵略】の2本を採り上げて見ます。
各地で事故多発、ファイザー製ワクチンの正体
超低温保存の理由は撃退のヒントにも
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65488
伊東 乾 医療 時事・社会
新型コロナウイルスを撃退するのに最も効果がある方法とは
もうどうしようもない、初歩的なミスによる現場の混乱としか言いようがありません。
私が前回稿(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65466)で「せめてワクチンの入った瓶のナンバリング管理ぐらいしなさいよ」と、小学生の給食当番に注意するようなアドバイスを記さねばならなかった714人ものワクチン接種者「継続観察」。
その5月28日に同じ福岡で、久留米と目と鼻の距離にある大牟田市で今度は「m-RNAワクチンを冷蔵庫に仕舞い忘れる」事態が発生しました。
それこそ給食当番の子供が犯すようなミスでした。
このため、医療従事者に接種するはずであった「1044人分のワクチン」が使い物にならなくなり捨てざるを得なくなった。まず事件を振り返っておきましょう。
大牟田市の独立行政法人・国立病院機構「大牟田病院」(川崎雅之院長)で、ワクチンを保存している冷凍庫から、当日使用するために1044人分(1バイアル瓶6人分のシリンジを用いているとして174個のバイアル瓶が入った)ケースが超低温冷蔵庫から取り出されました。
そして、そのまま準備台の上に約3時間放置されていたという。さぞかし室内の水蒸気が結露して、あたりは水びたしになっていたことでしょう。
ワクチンは1人分が約2000円弱ということなので、正確な価格は分かりませんが 1瓶1万5000円程度とすると、こんなうっかりミスだけで260万円ほどワクチンが無駄になったらしいとも推察されます。
なぜ、こんな初歩的な事故が起きたのか?
マニュアルには2人で行うことになっているこの種の作業を、1人で行ったために、うっかりミスに気付かなかったのが、ことの真相だったという。
でも、その1人のミスばかり責め立てても意味はないでしょう。
さて、福岡県から、例によってお決まりの「福岡県は今後のワクチン接種の日程に直ちに影響はない」というご託宣と、「ワクチンを取り扱う医療機関に改めて管理の徹底を求める文書」が出たようです。
しかし、文書が1枚出て再発防止になるなら、誰も苦労はしません。
7月に向けて抜本的な対策が講じられないのであれば、こうした事故は今後、「1日100万発」などの空疎な数値目標が独走する中、ますます増える危険性が高い。
ファイザーの新型ワクチンは、摂氏マイナス76度の超低温で保存し、解凍したら2時間以内に希釈して接種しないと使い物にならないという、まことにデリケート、厄介な特徴を持っている。
「超低温冷凍保存」のみならず「過剰な振動も厳禁」。こんなワクチン、いまだかつて現場の看護師も医師も扱ったことがないのに加えて、「やれ急げ」「1日100万発」と急かすのだから、事故が続発して何の不思議もない。
しかし、それにしてもどうしてこの「新型ワクチン」は、そんな面倒な「解凍」やら「希釈」やら手間暇をかけねばならないのでしょうか?
いわば「大規模治験」:
人類史上初めてのmRNAワクチン
ファイザー社製のワクチンは、大げさでなく、実は、人類史上かつて使われたことのない薬の、壮大な「治験」を行っているような状態になっています。
「mRNAワクチン」
これがファイザー社製ワクチンの正体です。本連載でも以前解説しましたが、病原体の遺伝子の一部にほかなりません。
一般にワクチンというのは、弱毒化した病原体をあらかじめ体の中に入れ、免疫をつけさせて、本物のウイルスが入ってきても退治できるようにしておこうという戦略で接種されます。
今回の新型コロナウイルス対策でも
ベクターワクチン:アストラゼネカ社製
mRNAワクチン:ファイザー社製
など、複数の作用機序の異なるワクチンが使われています。
この中でmRNAワクチンというのは、非常に簡略化して説明するなら、単体では悪さをしない(はずの)新型コロナウイルスのmRNA=遺伝情報(の一部)を直接接種し、免疫をつけさせる新しいタイプのワクチンです。
何が新しいのか?
これはつまり、簡単に言えばコロナの「ツノツノ」だけを人間の細胞の中で「栽培」して私たちの細胞から「生やし」、それを異物として認識した私たちの免疫系が抗体を生産する・・・。
いわば「人」の細胞から「オニ(SARS-CoV-2)」のツノを生やさせるという戦略が、人類史上かつて存在しなかった。それを今、現在進行形で大規模に治験している状態にあります。
壊れやすい1本鎖プラス鎖RNAウイルス
さて、新型コロナウイルスの実体は「RNAウイルス」と呼ばれるもので、ツノツノのカプセルの中に「RNA」という形で遺伝子が格納されています。
これが人間の細胞の中に侵入=感染すると、私たちの細胞が「工場」となって、ウイルスの「設計図」に従って、私たちの体に必要ではないウイルスを再生産してしまう。
すると、細胞が通常の機能を果たせなくなり、患部は炎症を起こし、肺であれば肺炎になり、免疫による抑え込みが利かないと重症化して、死に至ることもある。
これが新型コロナウイルス感染症の感染・発病のおおまかな実態ですが、コロナウイルスというのは、自分の体の中に自分の遺伝情報、つまり「設計図」だけ持っているんですね。
タチの悪いことに、この設計図は「施工図面」で、私たちの体の中に入ると、すぐにウイルスを複製できる、シンプルな形をしています。
どのように「シンプル」なのか?
遺伝情報が、1本の鎖、リボンに記されているんですね。正確には「1本鎖プラス鎖RNA」と呼ばれます。
このなかで「プラス鎖」とは直ちに施工図面=mRNA(伝令RNA)として利用可能であることを意味します。
何か気づきませんか?
そう、先ほどから「超低温保存」などと言っているファイザーのワクチンは、まさにこの、新型コロナの中身の一部そのものであって、かつ「超低温」「振ってはだめ」というデリケートな取り扱いになっている。
なぜ超低温、なぜ振ってはダメ?
理由は簡単、RNAは壊れやすいのです。
常温で放置すると、ワクチンは簡単に「ゆで卵」状態となり、ヒヨコが孵らない代物となってしまう。
激しく振れば、RNAは容易に壊れて使い物にならなくなる。なぜ?
新型コロナの遺伝子は、物理的に弱い構造でできているから、切れやすいのです。激しく振ったりするだけで壊れてしまう。
同じ遺伝情報でも、私たちももっているDNAは「2重らせん構造」になっているのは広く知られる通りです。
この2重らせんだと、2つのパーツが組になっているから、構造的にも強固だし、仮に一部が壊れても、残った情報から修復することも可能です。
ところがRNAは1本しか鎖がないから、切れたらそれまで。一巻の終わりとなる。
ファイザーのワクチンは、この弱くて壊れやすいコロナRNAの一部分を「油のカプセル」の中に封じ込め、人間の細胞内に届けようとするものなのです。
病原体のカプセルは天然素材の借用品
これに対して、新型コロナウイルスそのものは、ツノツノの生えたカプセルに入っていますが、実はこのカプセル、宿主の「小胞体」という細胞の一部をちゃっかり借用して、その中に「発芽」して作られているんですね。
こっちの「天然素材」で守られたウイルスの方が、壊れやすいRNAを保護するよう、ワクチンなんぞより強くて精巧につくられているわけです。
いわば「緩衝材」が沢山入った、宅急便みたいなものです。
これに対して、悲しいかな2020年からにわか作りでともかく実用化に漕ぎ着けただけのRNAワクチンは、たかだか油の膜で包んだだけだから、ちょっとした衝撃でも中身のRNAが壊れてしまう。
そのため、「素人梱包で小包を送ってみたら中の壺が割れていた」というようなことが簡単に起きる。
私たちが暮らしている常温というのは、深海で生活する動物には、生命活動を維持するのが困難なほど高温なのです。
例えば、アンコウのような深海魚を地上の温度に放置するのは、茹でているのと変わらない。
ファイザーのワクチンも、深海魚ではないですが、「超低温」で保存すれば何とか原型を保つことができますが、常温に晒されると、さっさと壊れてなくなってしまう。
というのも、ワクチンたちにとっては、摂氏15度とか20度という温度は、熱湯で茹でられる「ワクチンのゆで卵」状態に等しいと考えていいからです。
ちなみに「マイナス70度以下」という保存温度に、ウイルス側の根拠はありません。すべて物流と品質保証のため条件が整えられています。
マイナス78.5度というのがドライアイスの昇華点で、この比較的容易に調達できる寒剤で保冷できる環境で、どの程度ワクチンが壊れずに移送、配布できるか、品質保証面からチェックされ出荷されている。
その保証範囲外、例えば室温で3時間放置などの状態にしてしまったら、ワクチンの効き目に保証はもてませんよ、元来が深海魚であるアンコウが、そんな環境で生きてるとはとうて思えないですよ、というロジスティック面からの条件であることも付記しておきましょう。
固ゆで卵をふ卵器に入れても、ヒヨコが生まれてこないように、3時間常温で放置されたファイザーのワクチンは、油のカプセルの中でmRNAが茹で蛸になってしまい、私たちの体の中に注射してもコロナは死んで発芽することができません。
アルコール消毒の源流探訪:
ひ弱なコロナのカプセルを溶かせ!
これを逆に考えてみてください。
コロナの病原体は、人間由来の天然素材、小胞体が材料のカプセルにツノツノを生やし、ナチュラル梱包材でmRNAを守っていますが、このカプセルがなくなったら、常温ではひとたまりもない、あっという間に壊れてしまいます。
ということは、このカプセルをやっつけてしまえばよい。
RNAを保護している梱包材を破壊すれば、コロナは人間に感染することができなくなる。
どうすればよいか。
アルコールで手や皮膚を消毒というのは、この「梱包材」を溶かしているのにほかなりません。
いま、日本国内の至る所に、コロナウイルスは蔓延しています。これが私たちの体内で、細胞の中で「発芽」しないようにする、一番の早道は、ひ弱な病原体の正体を裸にすること。
つまり、お湯と石鹸で手も顔も全身もよく洗い、アルコールでよく払拭して、付着しているかもしれないコロナの表層、ツノツノのカプセルを溶かして、壊してしまえばよい。
そしてより本質的な伝染病の克服策は、エリアの中から病原体を一掃、駆逐すること以外にはありません。
ワクチンは対策の一つではありますが、決定打でもなければ、最終兵器でもない。
コロナが突然変異を繰り返せば、いつか、毎年更新されるインフルエンザウイルスのように、現状の2020年型が効かない奴らが必ず出てきます。
そうなると、ウイルスの進化とワクチンのミュータントのイタチごっこ、もっとハッキリ言えば悪循環にしかなりません。
変異ウイルス対応で、さらに新型ワクチンが開発され、全国の医師も看護師も取り扱いに慣れていないと、またぞろ1万人分、茹で卵にした、みたいな事故が必ず続くでしょう。
慣れてないのだから仕方ありません。そうじゃないんですね。
地味で常識的な結論にしかなりませんが、隔離と消毒の徹底、手洗い、うがいその他ごく普通の予防措置を徹底するのが、実はこの病魔克服の一番の早道にほかなりません。
性急に「最終兵器」を期待して、薬を注射しても、ガンジス川で沐浴しても、牛の糞を体に塗りつけても、功罪両面という現実をよく直視する必要があります。
伊東 乾のプロフィール
作曲家=指揮者 ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督
1965年東京生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同総合文化研究科博士課程修了。2000年より東京大学大学院情報学環助教授、07年より同准教授、慶應義塾大学、東京藝術大学などでも後進の指導に当たる。若くして音楽家として高い評価を受けるが、並行して演奏中の脳血流測定などを駆使する音楽の科学的基礎研究を創始、それらに基づくオリジナルな演奏・創作活動を国際的に推進している。06年『さよなら、サイレント・ネイビー 地下鉄に乗った同級生』(集英社)で第4回開高健ノンフィクション賞受賞後は音楽以外の著書も発表。アフリカの高校生への科学・音楽教育プロジェクトなどが、大きな反響を呼んでいる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)、『知識・構造化ミッション』(日経BP)、『反骨のコツ』(団藤重光との共著、朝日新聞出版)、『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など。
それにしても「東京五輪・パラリンピック」を控えて、これだけ多くの人に短時間で摂取するには医師以外の手助けも必要で、処置の遣り方を徹底するには凡ミスだって生じることが起こります。
「超低温保存」(マイナス90度からマイナス60度の超低温の冷凍庫での保管が必要とされてきましたが、現在は、マイナス25度からマイナス15度の状態で最長で14日間保管する方法が認められています)などと言っているファイザーのワクチンは、まさにこの、新型コロナの中身の一部そのものであって、かつ「超低温」「振ってはだめ」というデリケートな取り扱いになっているので、素人に近い人にとっては非常に扱いにくい。
次は中國の覇権主義からの危険を日本の技術搾取、スパイ行為で昔と違い人に依らずにネットを駆使して根こそぎ奪っていく行為でどの様な対策をしなければいけないのか考えて於きたい!
地方の町工場も危ない!根こそぎ技術を奪う中国の見えない侵略
今こそ日本のインテリジェンス機関を強化せよ
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65562
井上 久男 世界情勢 時事・社会 安全保障
画像はイメージです(Pixabay)
(井上 久男:ジャーナリスト)
あなたの持っている技術やデータが狙われています──。日本のインテリジェンス(情報)機関の1つ、公安調査庁はホームページの目立つところに経済安全保障特集ページを組み、最近は動画で日本を含めた世界の「産業スパイ」の手口や摘発事例を掲げ、警鐘を鳴らしている。
公安調査庁の経済安全保障特集ページに掲載されている動画「経済安全保障の確保に向けて~技術・データの流出防止~啓発動画(本編)」より
台湾有事が想定されるほどの激しい米中対立の状況下において、経済安全保障(以下「経済安保」)という概念が急速に広がり始めている。
政府は今年(2021年)6月中に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の中で、経済安保政策を柱の1つに据え、外為法の強化によって輸出管理を強化し、留学生や海外からの研究者の受け入れの審査も厳しくする方針だ。
中国の「軍民融合」戦略とは
そもそも経済安保とは何かといえば、ネット空間、投資、経済援助、貿易、研究、社会インフラなど主に経済活動の領域で、「軍事的な作戦」が仕掛けられていることを想定して国を守ることである。伝統的な陸海空の戦力だけでは国は守れない時代が来ているのだ。
中国はすでに2000年代初頭から「非軍事領域における軍事活動」を視野に活動を展開してきた。これを「軍民融合」戦略とも呼ぶ。たとえば、中国の一帯一路戦略上の重要なシーレーンにある島国のスリランカに経済援助し、お金が返せなくなると港に租借権を設定した。これは「債務の罠」と呼ばれる。
オーストラリアでも危機管理に疎い地方政府のわきの甘さに付け込み、中国は2015年、南太平洋に面した要衝のダーウィン港(米海兵隊が寄港する港)に99年の租借権を設定、戦わずして領土を奪った。2000年前の「孫子の兵法」が今でも生きているかのようだ。
経済安保の概念が広まる背景には、こうした中国の戦略への警戒に加えて、民間技術の驚異的なスピードによる進化がある。かつては「インターネット技術」に代表されるように、国家予算をつぎ込んで開発した軍事関連技術が民間に転用される「軍→民転換」の時代だったのが、今や通信、人工衛星、量子技術など民間が開発した技術が同時に軍事に用いられる「デュアルユース」の時代に突入している。
これは、他国から最新の民間の研究技術を巧妙に奪えば、自国の軍事力向上につなげることができる時代になったことを意味する。だから冒頭で紹介したように公安調査庁が警鐘を鳴らしているのだ。
狙われる技術は何も超最先端のものばかりとは限らない。巻いたり、削ったり、曲げたりといった効率的な製造ノウハウが狙われることもあるだろう。地方の町工場や大学の研究室などが産業スパイのターゲットに十分なり得るということだ。
『中国の「見えない侵略」! サイバースパイが日本を破壊する』(井上 久男著、ビジネス社)
筆者は自動車産業を中心にグローバル製造業を取材領域としてきたが、ここ数年は取材現場で企業側が経済安保を意識していることを感じることが増えたし、米中2大市場に依拠する企業が多い中で日本の立ち位置は難しいとも感じるようになっていた。本稿は、そうした問題意識の下で執筆している(最新刊の拙著『中国の「見えない侵略」! サイバースパイが日本を破壊する』では、日本の技術流出の深刻な状況を、より多面的に、かつ詳細に論考している。本稿と併せてお読みいただきたい)。
インテリジェンス機関の強化が欠かせない時代に
技術流出の話に戻ると、日本はこれまでこうした産業スパイ対策に無防備過ぎた面は否定できない。こうした中で機能強化が求められるのが公安調査庁などのインテリジェンス機関だ。しかし、言っては悪いが同庁は弱小官庁。予算規模も先進国のインテリジェンス機関と比べても小さい。
筆者が入手したある資料によると、公安調査庁の人員は約1600人で予算は2019年度に約153億円なのに対し、英国秘密情報局は3000人を超えて4000億円程度、オーストラリア保安情報機関は約2000人で412億円程度、ドイツ憲法擁護庁は約3000人で500億円程度と見られている。
こうした人員、予算の面だけではなく、法整備でも日本には課題がある。たとえば、米国では調査や捜査のためには「仮想身分」が認められ、本人名義とは別のパスポート発行が認められているが、日本ではまだインテリジェンス機関が動きやすい制度が整っていない。世論もまたそうしたことを求めているようには見えない。
その理由を筆者なりに考えると、インテリジェンス機関は日本ではまだ戦前の「特高警察」のようなイメージを持っている人が少なからずいることと、これまでの政府の情報開示の姿勢に課題があったため、こうした組織は裏で何かひどいことをしているのではないかと勘繰られていることが影響しているからではないか。
しかし、こうした考え方は時代遅れではないかと感じる。米中対立が激化し、中国が「軍民融合」戦略で迫ってくる状況下において、インテリジェンス機関の強化は欠かせない時代に入っている。特に「デュアルユース」の時代になって、不正な技術流出防止のためには民間との協力は不可欠なのではないか。
民間との協力体制を強化するFBI、CIA
産業スパイの活動や技術流出を防ぐ体制を構築する上で、米国の動きが参考になる。
米国でも企業や研究機関にじわりとスパイ活動が浸透していく形で秘密情報が盗まれるため、FBI(連邦捜査局)が新たな情報収集のノウハウを構築している。進化のキーワードが「民間との協力、信頼関係の構築」。外部からの捜査だけでは限界があるからだ。
まず、FBIはDHS(国土安全保障省)と連携して「DSAC(国内安全保障同盟評議会)」と呼ばれる組織を立ち上げた。ここは民間企業と、FBIやDHSとの情報交換の場と位置付けられ、現在は50業種から509社が参画しているという。FBIとしてはまず気軽に民間企業から情報提供を受け、相談される関係を構築しようとしているのだ。
FBIは、啓蒙活動を強化するため、実際にあった産業スパイ事件をモデルに「The Company Man」というドラマ仕立ての映像を制作したり、米化学大手デュポンの幹部がFBIとどのような関係を構築したかを語るインタビュー動画も公開したりしている。
米国のインテリジェンス機関CIA(中央情報局)も民間との協力を強めており、2012年時点でCIA職員の30%程度が民間からの出向者だったとの情報もある。
産業スパイ対策において、こうした捜査・インテリジェンス機関と民間企業との連携強化は「副産物」を生んでいる。それは「インテリジェンス産業」の誕生だ。CIAから委託を受けて戦争計画を分析するコンサルティング会社や、インテリジェンス人材を育成する教育会社などのことだ。
CIA自身が自前のベンチャー投資ファンドを持つ。2011年に設立された「インクテル(In-Q-Tel)」というファンドで、1億7000万ドルほど(約185億円)の資金を持つとされる。CIAがベンチャー投資ファンドを設立したのは、技術革新の流れが速い中、情報収集のための有望な技術を持つスタートアップなどの企業を囲い込むためだ。
そのインクテルが出資した「パランティア」が2020年9月、ニューヨーク証券取引所に上場した。同社は2004年に決済サービスのペイパルの創業者の1人、ピーター・ティール氏が起業した会社で、ビッグデータの解析を得意としている。
この「パランティア」が一躍有名になったのは、テロ組織「アルカイダ」の指導者、オサマ・ビンラディン氏の居場所を米軍が探り出した際に使ったのが同社の解析システムだとされるからだ。米国では、いわゆる「インテリジェンスコミュニティ」と呼ばれる人材は今や400万人近くいるとされる。企業側がFBI元捜査官を「チーフ・トラスト・オフィサー」に起用するケースも出ている。こうした「プロ人材」が企業内部で産業スパイやサイバー攻撃などに対して防御対策を講じるのだ。
比重を経済安保対策に移し始めた公安調査庁
国家を挙げてこうした対策を講じていても、米国では今年5月、最大級の石油パイプラインがサイバー攻撃を受けて稼働が止まってしまった。攻撃ノウハウは進化し、守る側のノウハウといたちごっこの一面がある。サイバー攻撃を行うハッカーからすれば、日本などは赤子の手をひねるようなものだろう。
日本でもやっと経済安保に関してインテリジェンス機能の強化や民間との連携を推進する動きが出始めている。自民党政務調査会の中に置かれた新国際秩序創造戦略本部が昨年12月に初めて打ち出した経済安保政策の中では「経済インテリジェンス能力の強化」が謳われた。
こうした動きを受け、公安調査庁の経済安保に関連した情報収集、分析活動の強化に向けた予算は2020年度の当初予算で29億1100万円だったのが、同年度補正予算で5億7000万円が追加され、2021年度当初予算は32億2000万円となった。この1年間で8億円を超える予算増となり、人員増強も認められ、関連要員の確保のために76人が増員された。国家財政が規模しい中で異例の措置と言えるだろう。
同庁はこれまで「破壊活動防止法」や「無差別大量殺人行為を行った団体の規則に関する法律」に基づいてオウム真理教への対応、国際テロの防止などに注力してきたが、比重を経済安保対策に移している。税金で賄われている組織であり、時代の変化とそれに伴う社会的なニーズに対応できなければ、役所としての存在意義が薄れてしまうからだ。
変化を象徴する動きがあった。2020年12月3日、同庁の和田雅樹長官が東京・大手町の経団連会館で経済安保をテーマに講演したのだ。長官自体が講演することは別に珍しくなく、テーマは国際テロ問題などが多かった。なぜなら企業活動がグローバル化して、海外駐在員や出張者がテロ組織に誘拐されるなどのリスクが高まっているため、そうした事案への啓蒙が求められてきたからだ。しかし、経済安保は初のテーマだった。
講演後の意見交換会では、技術流出防止を推進する社内教育について同庁に協力を求める声が企業側から上がったという。企業も経済安保には敏感だ。早ければ2022年に上場会社が企業統治上参照する指針を示した「コーポレートガバナンスコード」が改定され、経済安保担当役員の設置が義務付けられる方向で動いていることも影響しているのだろう。
井上 久男のプロフィール
井上 久男(いのうえ・ひさお)ジャーナリスト
1964年生まれ。88年九州大卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年、朝日新聞を退社し、2005年、大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在はフリーの経済ジャーナリストとして自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。
主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。
この記事が提示している日本の経済安全保障は全国に会社や町工場経営に携わる人に多く認識している訳ではない。
まして戦時中の特高警察とは現在ほどインテリジェンスの規模が違う。
中國の問題は豪州の地方自治体の危機管理の無さで如何に危険な事なのかが理解されてきました。
「父つぁん」の考えに、「俺っち」が、この問題では日本の危機管理も経済安全保障に政権も予算を増やしていますが、とても排除できるような予算なのか疑問ですよ。
平和ボケの「日本学術会議」を筆頭に野党と言われる議員連中の国会質疑を聞いていても「父つぁん」が、本当に日本の危機を感じているのか頭を傾げています。
国論をどの様にも方向づけする責任があると思う。
どう見ても国を守る愛国が根底に見えないから基本姿勢が問われてしまうのでは無いか?
中國問題で世界が覇権と同時に注目している人権事案が中國の基本姿勢を解説するときに欠落している様に思う。
サイバー空間でロシアまで中國側に立って自由世界にハッキングしまくっている。
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